なぜIllustrator?印刷物デザインで選ばれる理由を徹底解説!

ポスター、チラシ、名刺、パンフレットなど、わたしたちの身の回りには多くの印刷物があります。これらのデザインデータを作成する際、多くのプロフェッショナルがAdobe Illustrator(イラストレーター)を使用しています。「WordやPowerPointじゃダメなの?」「Photoshopと何が違うの?」そんな疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。今回は、なぜ印刷物のデザインデータ作成においてIllustratorが最適と言われるのか、その具体的な理由を分かりやすく解説していきます!

Illustratorってどんなソフト?

まず簡単にIllustratorについておさらいしましょう。Illustratorは、Adobe社が提供するグラフィックデザインソフトで、特に「ベクター形式」の画像を扱うことを得意としています。

  • ベクター形式とは?
    点と線、そしてそれらを結ぶ曲線などの数値情報(数式)を元に画像を描画する形式です。どれだけ拡大・縮小しても、画像の品質が劣化しない(ギザギザにならない)のが最大の特徴です。ロゴやアイコン、イラスト、精密な図形、そして文字情報などを扱うのに非常に適しています。

一方、Photoshopは主に「ラスター形式」の画像を扱います。

  • ラスター形式とは?
    ピクセル(小さな色の点の集まり)で画像を表現する形式です。写真のような複雑な階調や色彩を持つ画像の編集に適しています。画像の解像度(単位面積あたりのピクセル数)が画質を左右し、作成時の解像度以上に大きく拡大すると、画像が粗くぼやけてしまう特性があります。

この「ベクター形式」を扱えることが、Illustratorが印刷物デザインに強い大きな理由の一つです。

Illustratorで印刷物データを作成する具体的なメリット

では、具体的にどのようなメリットがあるのか見ていきましょう。

  1. ベクター形式だから、仕上がりが美しい!
    • 無限の拡大・縮小に強い
      ロゴやイラスト、文字などを、名刺のような小さなものからポスターや看板のような大きなものまで、同じデータで美しくシャープに印刷できます。この「どれだけ拡大しても劣化しない」という特性はベクター形式ならではの大きな強みです。(Photoshopの場合、非常に高い解像度でラスターデータを作成すれば、ある程度の拡大には耐えられますが、ベクター形式のような無限の拡大耐性はありません。特にシャープさが求められるロゴや文字、線画などは、最初からベクターで作成する方が圧倒的に有利です。)
    • シャープな線と文字
      ベクターデータは常にクリアなエッジを保つため、印刷した際の線や文字のキレが格段に良くなります。
  2. 印刷に適したカラー管理ができる!
    • CMYKカラーモードに標準対応
      印刷物は通常、CMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック)の4色のインクを掛け合わせて色を表現します。Illustratorは初めからCMYKカラーモードでデータを作成できるため、画面で見た色と印刷後の色の差異を最小限に抑えられます。一方、Web用の画像などはRGB(レッド・グリーン・ブルー)で作成されるため、これをそのまま印刷に使うと色味が大きく変わってしまうことがあります。
    • 特色(スポットカラー)の指定が可能
      CMYKの掛け合わせでは表現しきれない特定の色(例:金色、銀色、蛍光色、企業のロゴで定められた特定の色など)を「特色」として指定できます。PANTONEカラーなどの特色ライブラリも利用可能です。
    • オーバープリント設定など高度な機能
      特定の色を下の色に重ねて印刷する「オーバープリント」など、印刷特有の専門的な設定も細かく行えます。これにより、意図しない白抜けなどを防ぐことができます。
  3. 文字の扱いが自由自在で、トラブルも防げる!
    • アウトライン化でフォント問題を本質的に解決
      デザインで使用したフォントが印刷会社のPCにない場合、文字化けしたり別のフォントに置き換わったりするトラブルが発生します。Illustratorでは、文字情報を完全に図形(パス)に変換する「アウトライン化」を行うことで、フォント環境に依存しない、見た目が完全に固定されたデータを作成できます。これにより、どの環境でも意図した通りの文字形状で印刷されます。※1
    • 精密な文字調整(カーニング・トラッキング)
      文字と文字の間隔(カーニング)や、文字列全体の文字間隔(トラッキング)、行間などを非常に細かく、直感的に調整できます。これにより、読みやすく美しい文字組が実現します。
    • デザイン性の高い文字表現
      文字をパスに沿って配置したり、変形させたりと、デザイン的な文字のあしらいも得意です。

      ※1:Photoshopにもテキストレイヤーがあり、フォント情報を保持しています。また、テキストレイヤーをラスタライズ(画像化)すれば、その時点での見た目が固定されるためフォントの置き換わり自体は防げます。しかし、ラスタライズされた文字はラスター形式の画像扱いとなるため、Illustratorでアウトライン化されたベクター形式の文字と比較すると、拡大時のシャープさや印刷適性で劣る場合があります。特に小さな文字や複雑な書体の鮮明さにおいて、ベクターテキストの優位性が際立ちます。
  4. 印刷用のレイアウト機能が充実!
    • アートボードで複数ページやサイズを効率管理
      1つのファイル内に複数の「アートボード」(作業領域)を作成し、名刺の表裏、パンフレットの複数ページ、サイズの異なるアイテムなどを一元的に管理・作成できます。
    • トンボ(トリムマーク)や塗り足しの設定が簡単
      印刷物を断裁する際の目印となる「トンボ(トリムマーク)」や、断裁時のズレを考慮した「塗り足し」を正確に設定できます。これらは印刷データの必須項目です。
    • ガイド・グリッドで正確な配置
      ガイドラインやグリッド機能を使って、要素をミリ単位で正確に配置できます。
  5. 印刷業界の標準ツールである安心感!
    • データ入稿がスムーズ
      多くの印刷会社では、Illustratorのネイティブ形式(.ai)や、Illustratorから書き出したPDF/X形式(.pdf)が標準的な入稿データとして受け入れられています。これにより、データの再変換や予期せぬトラブルのリスクを減らせます。
    • 情報やノウハウが豊富
      業界標準であるがゆえに、使い方に関する書籍やWebサイトの情報、トラブルシューティングのノウハウなどが豊富に存在します。
  6. 他のAdobeソフトとの強力な連携!
    • Photoshopとの連携
      写真の加工はPhotoshopで行い、その画像をIllustratorに配置してレイアウトを組む、といったスムーズな連携が可能です。
    • InDesignとの連携
      複数ページの冊子物(カタログや書籍など)を制作する場合は、ページレイアウトに特化したInDesignが適していますが、Illustratorで作成したロゴやイラスト素材をInDesignに配置して使用するなど、役割分担して効率的に作業を進められます。

他のソフトではなぜ不十分なの?

もちろん、他のソフトでも簡単な印刷物を作成することは可能です。しかし、プロ品質の印刷物や、複雑なデザイン、正確な色管理が求められる場合には、以下のような点で限界があります。

  • WordやPowerPointなどのOfficeソフト
    これらは文書作成やプレゼンテーション用のソフトであり、基本的にRGBカラーで設計されています。CMYKへの変換時に意図しない色味になる可能性が高いです。また、精密なレイアウト、トンボ作成、塗り足し設定、フォントのアウトライン化などの機能が不足しており、印刷データとしては不備が多くなりがちです。
  • Photoshop
    Photoshopは、その名の通り写真加工や高度な画像編集、デジタルペイントにおいて非常に強力なツールです。ラスター形式を主体とし、写真のような階調豊かな表現や複雑なテクスチャ作成に優れています。 Photoshopで作成されたデータも、最初から印刷に必要な解像度(例えば300dpi~350dpi)を十分に確保していれば、ある程度の拡大縮小に耐えられ、美しい印刷結果を得ることは可能です。また、テキストレイヤーは編集可能な状態でフォント情報を保持し、最終的にラスタライズすればフォントの置き換わりを防ぐこともできます。

    しかし、以下の点で、印刷物全体のデザインやロゴ・文字などのパーツ作成においてはIllustratorに軍配が上がります。
    • ロゴ、アイコン、主要な文字要素の品質
      これらは多くの場合、様々なサイズで使用される可能性があり、またシャープな輪郭が求められます。ベクター形式で作成すれば、どのようなサイズに展開しても品質が劣化しません。Photoshopでこれらをラスターとして作成すると、想定以上の拡大が必要になった際に画質が低下するリスクが常に伴います。
    • レイアウトの柔軟性と再編集性
      印刷物のデザインでは、後からサイズ変更や大幅なレイアウト変更が生じることがあります。Illustratorのベクターオブジェクトは、このような変更に対して品質を損なうことなく柔軟に対応できます。
    • 印刷用の専用機能
      トンボの作成、特色の厳密な管理、オーバープリント設定、複雑なパスの扱いなど、印刷入稿データ作成に特化した機能はIllustratorの方が充実しています。 基本的には、写真や複雑なラスター画像の処理はPhotoshop、ロゴ・イラスト・文字組・レイアウトといった印刷物の骨格となる要素の作成はIllustrator、と使い分けるのが最も効率的で高品質なデータ制作に繋がります。
  • Canvaなどのオンラインデザインツール
    手軽にデザインを作成できる便利なツールですが、印刷用の詳細な設定(特に特色やオーバープリントなど)や、厳密なカラーマネジメント、出力できるデータ形式に制限がある場合があります。簡単なものなら問題ないケースもありますが、印刷会社や仕上がりの品質によっては対応が難しいこともあります。

高品質な印刷物への近道はIllustratorにあり!

このように、Illustratorには印刷物デザインデータを作成する上で非常に多くのメリットがあり、それがプロの現場で選ばれ続ける理由です。

  • ベクター形式による美しい仕上がり
  • 正確なカラーマネジメント
  • 自由で確実な文字の取り扱い
  • 印刷に適したレイアウト機能
  • 業界標準としての信頼性

もしあなたがこれから印刷物デザインを始めたい、あるいはより高品質な印刷物を作成したいと考えているなら、Illustratorの習得は非常に強力な武器になるでしょう。最初は覚えることが多いかもしれませんが、基本を理解すれば、デザインの幅が格段に広がり、思い通りの印刷物を作成できるようになるはずです。

創人塾では、Illustratorの基本操作から実践的なテクニックまで、皆さんのスキルアップを応援しています!

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筆者プロフィール

丸谷 香織 Kaori Maruya
Web・グラフィックデザイナー/ディレクター/創人塾Webデザインコーチ・リーダー


神奈川県横浜市出身。総合広告代理店で新規開拓営業を学び、その後ディスプレイデザイン会社で新規開拓営業・企画・デザイン・製作・現場施工を経験。2005年6月、フリーランスデザイナーとしてディスプレイデザイン・製作・施工を主軸に営業開始。初年度売上げ8桁達成で2006年10月法人成り、株式会社 Coconeil 設立。企業・店舗や団体・省庁などのイベントのWebデザイン・実装、ロゴデザイン、紙媒体のデザインと印刷を主軸に活動中。さらに近年では、駆け出しだった当時の自分を助けてくれた人たちへの恩返しの意味合いもあり、デザイン添削やアドバイスをする傍ら、複数のオンラインデザインスクールでデザインコーチ、講師としても活動。2025年3月、各分野のエキスパートたちとオンラインデザインスクール創人塾を開校、Webデザインコーチ・リーダーに就任。