WordPressテーマのデザイン流用はNG!Webデザイナーがデザインカンプを再現する真の理由

今日のWebサイト制作、特にWordPressを用いる現場で、「テーマ」は欠かせない存在です。しかし、その使い方について、わたしたちWebデザイナーは明確なスタンスを持つ必要があります。それは、「WordPressテーマは、テーマそのもののデザインを安易に流用するためのものではなく、クライアントから承認を得たデザインカンプを忠実に、そして効果的に再現するための強力な土台として利用する」ということです。

今回は、なぜWebデザイナーがテーマのデザインに頼るのではなく、あくまでデザインカンプの再現にこだわるべきなのか、その真の理由と、プロフェッショナルとしての価値をどう高めていくかについて、深く掘り下げていきます。

WordPressテーマは「出発点」であり「完成品」ではない

WordPressテーマが提供する数々のメリットは計り知れません。

  • 開発の効率化:ゼロからコーディングする手間を大幅に削減し、開発期間を短縮できます。
  • コスト削減:初期開発コストを抑える上で非常に有効です。
  • 基本的な品質担保:信頼できるテーマであれば、レスポンシブ対応や基本的なSEO対策、セキュリティへの配慮がなされています。

しかし、これらのメリットは、あくまで「効率的な制作を実現するための出発点」として捉えるべきです。Webデザイナーの仕事は、テーマを選んで「はい、完成」とすることではありません。クライアントが時間と費用をかけて作成し、承認したデザインカンプこそが、プロジェクトのゴールを示す設計図なのです。

なぜ「テーマのデザインそのまま」ではダメなのか?

もし、Webデザイナーがテーマのデザインをほぼそのまま流用し、デザインカンプの再現を怠った場合、どのような問題が生じるでしょうか。

  • クライアントの期待とのギャップ:デザインカンプは、クライアントのブランド戦略、ターゲットユーザーへの訴求、独自の価値提供などを熟考した上で作られています。テーマのデザインに置き換えることで、これらの重要な要素が損なわれ、クライアントの期待を裏切ることになります。
  • オリジナリティとブランド価値の毀損(きそん):テーマのデザインは、不特定多数の利用を前提としています。それをそのまま使えば、他サイトとの差別化が難しくなり、クライアント独自のブランドイメージを正確に伝えることができません。
  • 真の課題解決からの逃避: Webデザイナーの役割は、クライアントのビジネス課題をWebサイトを通じて解決することです。デザインカンプにはそのための戦略が込められています。テーマの安易な利用は、この本質的な課題解決から目を背けることになりかねません。
  • デザイナーとしての信頼失墜:「デザインカンプ通りに作れない」あるいは「作ろうとしない」デザイナーは、プロフェッショナルとしての信頼を失います。長期的な関係構築は望めないでしょう。

デザインカンプ再現こそWebデザイナーの腕の見せ所

クライアントから承認されたデザインカンプを、WordPressテーマというツールを駆使して細部までこだわり抜き、Webサイトとして具現化すること。これこそが、わたしたちWebデザイナーの専門性であり、提供できる価値です。そのためには、以下のスキルと意識が不可欠です。

  1. デザインカンプの読解力と計画性:デザインカンプの色や形だけでなく、余白、タイポグラフィ、インタラクション、情報設計の意図まで深く読み解きます。そして、テーマのどの機能をベースに、どの部分をHTML / CSS / JavaScript(場合によってはPHP)で独自に構築・調整すれば最も忠実かつ効率的に再現できるか、緻密な計画を立てます。
  2. 高度なカスタマイズ技術:テーマのスタイルを上書きするだけでは不十分です。必要に応じてテンプレートファイルを編集し、独自のクラスやIDを付与し、CSSで精巧なスタイリングを施します。JavaScriptを用いて動的な表現を加え、ユーザー体験(UX)を高めます。時には、テーマの枠組みを超える大胆なカスタマイズも求められます。
  3. ピクセルパーフェクトへのこだわり (と、その先):デザインカンプとの差異を1px単位で追求する精度は重要ですが、それだけではありません。各ブラウザでの表示差異や、実際の操作感を考慮し、デザインカンプの「意図」を汲み取った上で、より良いWeb体験へと昇華させる視点も大切です。
  4. コミュニケーション能力:再現が難しい箇所や、Webの特性上変更が望ましい箇所については、クライアントや関係者に適切な説明と代替案を提示できるコミュニケーション能力も、スムーズなプロジェクト進行には不可欠です。

テーマの機能を理解し、それを土台として最大限に活用しつつも、決してテーマのデザインに依存しない。デザインカンプという明確なゴールに向かって、自らの技術と知識を総動員して取り組む姿勢が、Webデザイナーの価値を決定づけます。

Webデザイナーの使命は、テーマを使いこなし、デザインカンプを形にすること

WordPressテーマは、わたしたちWebデザイナーにとって、クライアントのビジョンを形にするための強力な支援ツールです。テーマのデザインを「使う」のではなく、テーマを「使いこなし」て、クライアントが承認したデザインカンプを寸分違わず、あるいはそれ以上の品質でWeb上に再現すること。それが、プロフェッショナルなWebデザイナーの使命であり、クライアントからの信頼を勝ち得る唯一の道です。創人塾では、テーマの便利さに甘えることなく、真にクライアントの期待に応えられるWebデザイナーを育成することを目指しています。

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筆者プロフィール

丸谷 香織 Kaori Maruya
Web・グラフィックデザイナー/ディレクター/創人塾Webデザインコーチ・リーダー


神奈川県横浜市出身。総合広告代理店で新規開拓営業を学び、その後ディスプレイデザイン会社で新規開拓営業・企画・デザイン・製作・現場施工を経験。2005年6月、フリーランスデザイナーとしてディスプレイデザイン・製作・施工を主軸に営業開始。初年度売上げ8桁達成で2006年10月法人成り、株式会社 Coconeil 設立。企業・店舗や団体・省庁などのイベントのWebデザイン・実装、ロゴデザイン、紙媒体のデザインと印刷を主軸に活動中。さらに近年では、駆け出しだった当時の自分を助けてくれた人たちへの恩返しの意味合いもあり、デザイン添削やアドバイスをする傍ら、複数のオンラインデザインスクールでデザインコーチ、講師としても活動。2025年3月、各分野のエキスパートたちとオンラインデザインスクール創人塾を開校、Webデザインコーチ・リーダーに就任。